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Selfishly

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愛香る


~ 『愛、薫る』 ~



 ここ最近のエドワードには、気がかりと言うか、悩みと言うか、
気鬱と言うか…要するに、思い悩んでいる事が1つある。

 それは、前回の自分の失態で、自身が猫化してしまった時におこしてしまっていた言動の数々だ。
 自分の不注意なので、猫化してしまった事は仕方がない。
 それを何とかしようと、アルフォンスが大佐に自分を預けたのも、当然の成り行きだろう。
 そしてその後、胸に秘めていた想いも叶い、
晴れて互いがこ、こ、恋人同士になれたのも…結果的には万々歳なことなのだ。
 が、しかし! 猫化していた時の自分の行った数々の動作や仕草や、行動の数々には、
もうのたうち回りたいくらいに、恥ずかしいものが、そりゃもう山ほど!
 大佐にべったりとくっついては、撫でてもらったり、甘やかしてもらったり、
大佐に近づく人間に嫉妬したり、キ、キスなんかも自分から(仕方ないのだ、猫化していたのだから)
しちゃったりと、そらもう色々と…。
 思い出すたびに、そこらの地面を転がりまくり、穴があるならその中にその記録を埋めさせてしまいたい心境だ。
 勿論、素直になるのが目的だったのだから、その行為の数々に嘘はない、ないが……… 
自分だけ、あれ程の痴態を演じたのは、しかも記憶にバッチリと残っているのが、
かーなーり、悔しいのだった。
「俺だけ、あんな恥ずい言動を見せちまったってのが、どうにも腹ただしいよな…」
 どうにも弱みを握られたようで、落ち着かない。 別にロイがそんな事を逆手にとって
何かと言うような事はないのだが。
 要はエドワードの気持ちの問題なのだ。
 それでなくとも自分の恋人はかなり年上で、できものと評判の相手だ。
 まだまだ子供のエドワードが、自身の見劣りを気にしても仕方がない。 
 何か1つでも、彼の弱みを握る事は出来ないだろうか?
 そんな事を考えているエドワード自身が、十分ロイの弱みになっていること等、思いつきもしていない。
  
 別に恋愛の相手とは、勝ち負けや優劣を競う必要は無いはずなのだが、
幼いエドワードには恋愛の醍醐味などと高尚な情感は、まだまだ難しいようだった。
 何とか対等でありたいと願ったことが、捻じ曲がって弱みを掴りたいと言う願望へと摩り替わっていく。
 そして、エドワードは一つの決断と共に、行動を開始した。

 ***

 それから数週間後の東方。

「ちは~!久しぶり~」
「こんにちは、お久しぶりです」
 名物の兄弟が、今回も元気良く戻ってきたのだった。
「よぉ、久しぶりじゃねぇか?」
「こんにちは、二人とも」
 代わる代わるの挨拶に、エドワード達も明るく返していく。
「うん、皆も元気にしてた?」
「すみません、本当はもう少し早く着く予定だったんですけど、兄さんが足止めしてて…」
「アル! 余計な事は言うなよ!」
 慌てて弟の話を遮るエドワードに、皆も怪訝そうに首を傾げる。
「そう言えば…。 確か、先月定期報告に寄るって連絡あってから、結構日にちが空いたよな?」
「なんだエド、また本でも読みふけってたのか?」
「えっ…、まぁそんなとこ…かな」
 妙に歯切れの悪い返事を、微妙な笑顔で返されて、周囲が更に首を傾げるのを深くした。
「それが兄さんたら、何を急に思いついたのか…」
 皆の疑問に答えるべくアルフォンスが口を開こうとした矢先に、エドワードが話を強引に切り替えてくる。
「アル! 余計な事は言うなって言ってるだろ!
 んで、大佐は?」
 エドワードに止められたアルフォンスは、仕方無さそうに肩を竦めて、口を閉ざす。
「えっ、ええ、大佐は隣の部屋にいらっしゃるわ。 エドワード君たちの帰りが遅れて、
すっかり不貞腐れて仕事を進めないものだから、中に閉じ込めているの」
 何でもないことのように告げられた言葉に、周囲は引き攣った笑みを浮かべている。
「そ、そうなの…? じゃあ、行ってくるよ、俺」
 自分の約束反古が、迷惑を及ぼしている実態を知らされ、エドワードはそそくさと、隣の部屋へと歩いていく。
 
 コンコンコン
 ノックをすれば、寸暇の間もなく了承の返事が返ってきた。
 その久しぶりに聞く声に、思わず胸が跳ねた。
 後ろで興味津々に、成り行きを見守っているメンバーには気取られぬように小さな深呼吸をして、
エドワードは扉の中へと入っていった。
 パタンと閉められた扉の外では、事情を聞こうと群がったメンバーが、アルフォンスを囲んで、ヒソヒソ話を展開していた。

「久しぶり」
 ぶっきらぼうなエドワードの挨拶を、ロイは顰めた表情のまま、
じっと視線を向けてくる。
 その表情には、不満やら抗議や詰りに彩られているが、冷たさは微塵もないので、
ただ単に拗ねているようにしか見えないが。
「えっーと、まずはごめん。 帰るのが遅れちゃって…」
 ペコリと頭を下げて謝れば、大層なため息を吐き出しながらも、ロイの態度が軟化していくのが、気配でも判る。
「全く…君は」
 深い嘆息と共に、仕方無さそうに呟かれた言葉が、少々痛い。
「ご、ごめんって。 お、俺だって早く戻って来たかったんだけど、
どうしても、やっとかないといけない事があってさ」
「どうしてもやっておくこと? それは文献なのかね? それとも、何かの情報か?」
 自分の恋人が、ロイに付けている優先順位が何番目かを知っておきたい気持ちになっても仕方ないだろう。
「違う、そんなんじゃないんだ」
「違う? なら一体…?」
 そこで初めて表情を緩めて、エドワードを窺ってくる。
 
 心配そうな、真摯な視線を向けられて、戸惑うことになったのはエドワードの方だった。
 考えてみれば、修得してきたは良いが、どうやって実践するかまでは考えてこなかった。
 言ってたではないか、相手の協力が不可欠だと…。
 なら、今から自分が行おうとしている事には、ロイの協力が必要で…、協力を得るためには、
何をするのか、何故行うかの説明も必要だ。
 その最大の問題を考えていなかったとは…。
 あーうーと頭を抱えて、唸り始めたエドワードを、ロイは心配になって、
思わず腰を上げて、近くへと回り込んでいく。
「どうしたんだ? 何か困った事でも?
 なら、遠慮は要らない、何でも私に言ってくれないか?」
 肩に手を置いて、優しげに話してくれるロイと視線が合うと、エドワードは思わず自己嫌悪で恥ずかしくなる。
 これだけ親身になってくれる相手を負かしたいなどと、小さな事で拘っている自分が、
酷く矮小な人間に思えてきたからだ。
「や、やっぱ駄目だ… あんな事頼めない…」
 がっくりと肩を落とすエドワードに、徒事ならない様子を感じて、ロイ真剣に訊ね出そうと試みる。
「どうしたんだい? 君がそれ程思い悩む事柄なら、余程の重大事だろ? 
それを私に相談しないと言うのは、見過ごせないね」
 がっちりと両肩を捕まれ、揺さぶりをかけてくる相手とそれを拒む両者の攻防は暫く続く。

「わーった、判ったから、それ以上揺すらないでくれよ!
 め、目が回る…」
 クラクラとし始めた頭で、取り合えずロイを止めたエドワードは、観念して事の成り行きを離し始める。

 黙ってエドワードの話を聞いていたロイが、段々と表情を歪めて笑いを堪えているのを、
エドワードは恨めしげな視線で睨みつける。
「で、何かい? 君は自分だけ出なく、私にも甘える仕草をして欲しいと?」
 堪えきれなくなったのか、クスクスと笑いながら返された言葉に、エドワードは瞬間で真っ赤になる。
「だーれーが、そんな事言ったかよ! そうじゃなくて、あんたにも俺の恥ずかしい思いの数十分の一でも、
味あわせてやりたいって言ってんだよ!」
 互いに座ったソファーの横で、真っ赤な顔で膨れている恋人の拙い考えが、妙にロイの気分を和ませていく。
 ロイは首まで紅くして、そっぽを向いている恋人を眺めながら考えてみる。 
 エドワードが歳の差に引け目を感じていることは、薄々判ってはいた。 
彼の気質から、護られているばかりでは納得できない感情があるのだろう。
 が、素直に甘えろとも言えない性格でもある。 確かに二人の関係からは、
どうしてもロイがエドワードを甘やかす事が多くなるのは仕方がない。
 年齢も人生経験も、当然恋愛経験も豊富なのだから。 
『しかし、そこまで気にしてたとは…』
 かと言って、白々しくもロイが甘える事にしても、余計にエドワードの高い矜持が許さないだろうし…。
 暫しの思案の後、ロイは一つの提案をエドワードにする。

「じゃあ、取りあえず、やってみてはどうかな?」
 その言葉に、エドワードがポカーンとした表情で、ロイを見上げてくる。
 そんな幼い表情が、普段の彼とは全く違って、非情に可愛らしい。
「折角、君が時間をかけて修得してきた事だ。
 そこまでやりたいのなら、試してみても、私は構わないが?」
 そのロイの言葉に、零れそうに瞠られた瞳が、パチパチと瞬きされる。
 その無意識の仕草にも、ロイは思わず微笑が浮かんでしまう。
 ロイの考えでは、こうだ。 
 エドワードが齧ってきた催眠術か、暗示術かだが知らないが、要はロイ自身がかからなければ良いわけだ。
 たかが、暫くレクチャーを受けた位で、意志の頑健なロイにかかるはずもない。
 が、ここでエドワードの願いを断れば、彼の中にしこりが残ることにもなりかねない。
 折角彼が甘やかしたいと言ってくれてるのだ、ここはそれに素直に便乗して、
暗示にかかった素振りで甘えてみるのも、良しだ。
 
 エドワードは、驚いた表情でロイを見つめていたが、暫くすると、おずおずと問いかけてくる。
「……… 本当に? 本当に良いのか?」
 そんなエドワードに、ロイはにっこりと微笑んで頷いてやる。
「ああ、別に構わないよ。 私も、自分がどうなるのか興味があるからね」
 そう返してやれば、エドワードの表情が、パァーと明るくなる。
 そんな事くらいで、こんな笑顔が見れるなら、お安い御用だと思いながら、ロイの笑顔も深くなる。
 
 そして、ロイはエドワードの天才性を甘く見すぎていた事を、その後再認識させられるはめになる。

「じゃいいか? これをじっーと見ていてくれよ?」
 そう言い出して、目の前に突きつけられた振り子のコインを見つめる。
 コホンと咳払いした後、エドワードはその振り子を慎重に揺らしながら、ロイへと語りかけていく。
「ほぉ~ら、あんたは眠くなる、眠くなる~。 段々と瞼が重くなって、目が開かなくなっていく~」
 真剣なエドワードの表情に、どんな反応が正しいのか判らず、困惑気味にエドワードの言う事に、
逆らわないように瞼を閉じた。
「そう、あんたは眠くなって意識が薄れていく~。
 そして、あんたは犬になる~」
『犬ぅ~? 何でまた…』
 思わず瞳を開きそうになるのを堪えて、ロイは心の中で叫んでいた。
 素直に甘えるのに、別に犬になる必要はないだろうに、依りによって、また何で動物を指定してくるのか…。
 ロイは思わず犬の振りは、どんなだったかを考えてみる。
 余り動物を間近に見ることも、飼った事もないので、犬の振りを演技しきれるか心配になってきたのだ。
 そんなロイの杞憂の間も、エドワードの真剣な声は届いてくる。
 少し高めの彼の声は、こうして妙な言葉であっても、聞いていて心地よく響いてくる。 
地位も常識も分別もある大人が、エドワードの妙な提案に乗るような軽率さは、褒められはしないが、
滅多に無い恋人のおねだりなら、多少の融通は利かせてもお釣りがくる。
 どれくらい瞑っていたら良いのだろうか?などと暢気な事を考えていると、傍にいるエドワードの匂いが薫って来る。
 久しぶりの恋人の香りだ。 思わず香りに誘われそうになるのを抑えるのに一苦労させられる。
 不定期な恋人の帰りは、まだ若いロイには結構辛いものがある。
 こうして香りだけを感じていると、夜の帳で行う行為をより感じさせられるものなのだと実感した。
 取り合えずエドワードが早め、この行為に決着を付けてくれたら、出来る限り早めに家へと連れて帰ろう。
 悶々と膨れ上がっていく邪な思いと、体温を上げていく己の身体を持て余しながら、
エドワードが早く終わってくれるのを願い続けていると、漸く。
「では、俺が1・2・3の数を数え終わったら、目を開けて」
 そう聴こえてきたときには、ロイはすっかり今何をしていたのかも忘れて、
その後の行動にと胸を弾ませてしまっていた。
「1・2・3!」
 その宣言で、パッチリと目を開くと、興味津々で自分を見つめている恋人の思惑も忘れて。
「もう終わったのかね?」
 と、聞き返してしまったのだった。
 そして、自分が犬の仮面を被り損なった事に気づいたのは、
眼前でがっくりと意気消沈している恋人に気づいてからだった。

「あーそのぉ、エドワード…これは…」
 気まずい空気の中、どう慰めたら良いのかを考えあぐねていると、エドワードがきっぱりと返してきた。
「やっぱ、付け焼刃じゃ無理なんだよなぁ…」
 肩を落としているエドワードに、ロイはそっと腕を回して慰めようとした瞬間。
 コンコンコン
 と少し強めに扉が叩かれる。
 パッと立ち上がったエドワードを、少し残念に思いながら、返事を返す。
「何だ?」
 問いかけた言葉に、間無く返答が返される。
「大佐、休憩のお時間にしては長すぎるのでは? そろそろ次の書類をお持ちしても宜しいですか?」
 と扉越しにでもはっきりと判る声が、告げてくる。
「あっ、ああ、そうか…? 判った、入りたまえ」
 思わず時計を振り仰いだのは、時間を確認するためだったが、
思わず目を疑った。
 時計が指し示す時間は、エドワードが入ってから結構な時間が過ぎている事を示している。
 たかがあんな事で、それ程時間を取っていたのだろうか?
 そんなロイの疑念も、キビキビと入って来て、机の上に書類を積み上げていく彼女の行動に、悩む時間も無くなっていく。
「ま、待ちたまえ。 まさか、これ全部とか言うんじゃないだろうね?」
 既に追加の書類で埋もれた自分の机を、戦々恐々と眺めながら問う声も震えている。
「はい、そうですが? 大佐が今日までにお溜めになった書類は、これで全部です。 本日中に片付けていただきます」
「本日中~!」
 ソファーから飛び上がらん勢いで驚くロイに、ホークアイは冷静で冷酷な言葉を返す。
「当然です。 今日は終わるまでは、お帰りにはなれませんので」
 今晩のアレコレを考えていたロイにしてみれば、自業自得とは言うものの、余りにも哀しい出来事だ。
 が、飴と鞭の使い分けは天下一品の彼女の事だ。
「その代わり、これが片付き次第、休日に入って頂いて構いません。
 大佐の公休の消化にお当てください」
 その言葉に、現金に俄然やる気が湧く。
「本当かね!」
「はい、二言はありません」
 彼女がそう断言した時には、まず間違いない時だ。
「わかった、早速取り掛かろう」
 やる気を見せた上司に、小さく礼をして、ホークアイは部屋を出て行った。
「という事なので、エドワード、家で待っててくれるね?」
 優しい瞳で告げられる言葉に、エドワードは頬を染めて戸惑う様子を見せる。
「で、でも、アルが一人になるし…」
「大丈夫! その辺は任しておいてくれ、決して彼が寂しい思い等しないようにするとも!」
 そんな風に力強く告げられた言葉に、エドワードも小さく頷き返す。
「じゃ、じゃあ、邪魔したら悪いから、俺ももう行くな」
 その言葉を聞いて、ロイは初めて、今日はまだお帰りの抱擁も口付けも味わっていないことに気が付く。
「あっ、待ちたまえ。 その前に」
 ふわりと手の平を広げて、エドワードを包み込むように抱きしめる。 すると…。
 ロイは眩暈に近い感覚が、自分を襲うのを感じていた。
 それと、更にその奥では、もっと強い感覚…感情とは違う、激しさが渦巻き競りあがってくる。
 グルグルグルルル
 自分の喉から出ているとは思えない唸り声が零れている。
「た、大佐? い、痛いって!! 手え弛めてくれよ!」
 そのエドワードの訴えで、ふと自分の力が相手を締め上げる程力が籠もっているのに気づかされた。
「あっ、す、すまない? きつすぎたかい」
 手を離すと、苦しそうに息を付くエドワードが見て取れた。
「…はぁー、ビックリしただろ! あんま、力入れすぎるなよ」
 それでなくとも、エドワードは小さ目なのだ。 ロイが力の限り抱きしめれば、息もしにくい事だろう。
 プリプリと怒る恋人に謝りながら、ロイは自分の中で起こった変化に困惑していた。
『何だったんだ、今の感覚は?』
 エドワードを抱きしめた途端、くらりと意識が180度回転したような感覚があって、
気づけばエドワードが痛がるほどの力で抱きしめていた…いや、抱きしめずにおれなかった。
 そんな妙な感覚も、今は全く収まっている。
『欲求不満のせいか?』
 などと、ちょっとだけ悲しいコトを思いながら、出ていくエドワードを笑顔で見送り、
その後はひたすら書類と格闘して時間が過ぎていく。

 
 やる気の時の大佐は凄い!  
 その格言が生まれるほどの仕事振りを見せて、ロイは意気揚々と自宅へと戻っていった。 
明日は休みだと思えば、尚更帰る足取りも軽くなると言うものだ。

「ただいま~」
 上機嫌なまま、灯りの点る家へと入っていく。
「あっ、お帰り」
 パタパタとスリッパを鳴らして出迎えに出てきてくれたエドワードに、思わず頬が綻ぶ。
「いい匂いがするね」
 扉を開けた途端、溢れるように出てきた匂いに、ロイのお腹も刺激される。
「うん、腹減っただろ? すぐ食べれるからな」
「楽しみだ」
 そんな会話を交わしながら、廊下を歩いていく。
 キッチンに入ると、そこにはすでに食事の準備がされており、後はどうやら、
温かいものだけ皿に盛ればOKになっているようだ。
「すぐ食べ始める? それとも、風呂とか入ってからの方がいい?」
 そんな可愛いセリフを告げられれば、相好も崩れたままになると言うものだ。
「そうだね、どちらも良いが、まずは」
 さっとエドワードの顔を上げさせると、軽い口付けを落とす。
「お帰り」
 と今度は逆に、ロイがエドワードに告げる。
 すると、ほんのりと頬を染めながらも、エドワードが素直にロイに寄り添って返事を返す。
「ん…ただいま」
 ストンと手の中に納まった身体を抱き返しながら、ロイは久しぶりの恋人を、
もっと感じようとエドワードの髪に頬を埋もれさせるように摺り寄せる。

 と…。
 クラリと視界が霞む。
 『またか?』と思考が働いたのは、そこまでだった。
 後は無性に腕の中に納まる身体を感じたくて仕方がない。
 体から発せられる甘い香りが、酷くロイをそそるのだ。
 それは恋情のように温かいものではなく、体の芯から貫くほどの劣情を膨れ上がらせていく。
 気づけばエドワードの頤を掴んで、激しいキスを仕掛けては、驚いて縮こまる舌を見つけては絡めこんでいた。
「ちょ、ちょっ! まっ、待て…よ」
 苦しげな静止の声も、ロイの中では、どこか遠くで聴こえている。
『それよりも今は、この身体を喰らいたくて仕方がない』
 熱病に浮かされるように、朦朧とした意識の中で、込上げてくるものが、飢餓感だと、判る。
 体力も気力も奪い去られる程の飢えの後に来る飢餓感は、人の思考を狂わせて、
人間としての箍も外してしまう程となる。
 ロイは口内を蹂躙するだけに飽き足らず、性急に手を衣服の中に潜らせては、這わせていく。
「なっ、何すんだよ、こんなとこで! 離せ、離せってばー!」
 ロイの纏う気配の不穏さに気づいたのか、エドワードの抵抗も必死になってくる。
『煩い』と言ったつもりだったのに、口から漏れたのは、低い恫喝の唸り声だった。
「グルルルッ」
 低く重く洩れ出た声に、エドワードが目を瞠る。
 ロイはそんなエドワードを宥めるように、赤らんだ頬を大きな舌で、ベロリと嘗め上げる。
「ヒッ! な、ロ、ロイ、何か変だぜ?」
 ロイの異変に、エドワードが怯えを滲ませた声で話しかけてくるが、
ロイの耳には意味成す言葉としては入ってこない。
 それよりも…、嘗めた体の甘さに、思わずゴクリと喉がなる。
 ロイは頬といわず、耳や項に首元と嘗め上げては、甘噛みをし続けていく。 
『ああ! 一層のこと、この肌の下に流れる血肉までも噛み砕きたい!』
 そんな凶暴な思いが突き上げてくると、甘噛みにも力が籠もったのか、
エドワードが「痛い!」と訴えてくる。
 ロイから離れるように、両手に力を込めて突っぱねるエドワードを、
ロイは片手で塞いでしまうと、シンクに吊られていたタオルで、器用に纏め上げてしまう。
「な、何すんだよー! 外せ、外せってばー」
 シンクに押さえつけられたエドワードが、うつ伏せに押さえ込まれて、苦しそうに暴れる。
 ロイは行き場のない熱を吐き出そうと、エドワードの前へと手を回し込んで、ベルトとチャックを外しにかかる。
「ま、待てよ! あんた、まさかこんなとこで…。 や、やだ!
 ヤメロ、終いには怒るぞ!」
 
 エドワードガオコッテイル、ヤメナケレバ……

 思考の片隅で、そんな事を思うのに、手は、身体は、着々と欲情を高める為に動き続けている。
 ズボンも下着も、まとめて引き落とし、回した手がエドワードの分身を煽るように蠢いていく。
「っ… あっ・・ぅ・・・ くっ  」
 自分の分身を扱かれれば、エドワードの体から抵抗の力が抜けていく。 
ロイは少し強引にエドワードを追い上げてしまう。
 怯えで硬くなっていた身体も、どんどん熱を上げて、今は汗ばんでは、匂いが一掃強く薫って来る。
『イイ匂イダ…、タマラナイ』
 込上げてくる唾液を嚥下しながら、ロイは後ろからエドワードに被さるようにして攻め続けていく。
 虐ぶる手は、すでにエドワードの先走りでベトベトだ。 それを丹念に蕾に擦り込みながらも、
舌での愛撫も忙しなく続けている。 エドワードの上半身には、至る所にロイの噛み跡やら、
キスマークやらが、所狭しと点在しては、華を咲かせている。

「あっああーーー!」
 一際高い啼き声を上げて、エドワードが果てる。
 最後の一滴まで、きつく扱き上げてやると、ビクビクと背を反らしながら、エドワードが達し終わる。
 それを待っていたかのように、グッタリとした身体を小脇に抱えるようにして、
隣の部屋へと持ち運ぶと、毛足の深い絨毯へ転がして、膝立ちで跨りながら自分の衣服も脱ぎ捨てていく。
 ロイはエドワードの足を抱えるようにして持ち上げると、先ほどから痛いほど滾っている自身をあてがう。
 蕾はまだ解かされきってはいないが、これ以上我慢が出来そうも無いし、する気もないのだ。
 今は一刻も、この香りに奥深くまで包まれ、貫きたくて仕方がない。
 脱力仕切っていた体が反応を返し始めたのは、ロイが中に侵入を始めてからだ。
 やはり狭すぎたせいか、なかなかスムーズに入っていかない。 
ギチギチと締め付けてくる内部を、ズッズッズッと少しずつ捻じ込んでいく。
「っーーー! い、痛い  ヤメッーーー!」
 エドワードが暴れれば暴れるほど、彼の芳香が振り撒かれていく。
 ロイはうっとりと酔いながら、甘い淫らな香りを体中で堪能していく。
 最後まで納めこんだ時には、エドワードの顔は涙でグチャグチャで、
ロイは体中から汗が噴出し滴り落ちるほどになっていた。
 それでも体中に駆け巡る歓喜の感覚のほうが、疲労よりも遥かに大きくて強い。 
 満足げに、自分が貫いている相手を眺める。
 泣き腫らした瞼が赤く紅をさしたようになり、乱れた美しい髪は、惜しげもなく床に広げられている。
 白い肌には、綺麗なロイの華が咲き乱れ、上気している身体が、より一掃艶かしく赤みを濃くして飾っている。
 ロイはつぃと顔を寄せて、零れる涙を嘗めてやる。 
 そんなロイの行動に、エドワードが薄っすらと目を開ける。
 ロイは、今彼が行っている行為も忘れたように、嬉しそうな笑みを浮かべて、エドワードと視線を絡ませてくる。
「クゥ~ン」
 と鼻声を鳴らすと、鼻頭をエドワードの身体に摺り寄せてくる。
「ロイ…。 もしかして、犬…?」
 クゥーン クゥーンと甘えるように頭を擦り付けてくる行為は、人と言うよりは動物。
 エドワードは昼に行った自分の行動を振り返り、合点がいった気がした。
 昼のいきなりのロイの変貌といい、今の普段なら有り得ないロイの無体にしろ…それに鳴声以外、
この行為が始まってから一度も言葉を聞いてない事にしろ…。 
「はっはっはっ…、まさか術がかかっちゃった?」
 乾いた笑い声を上げながら、そんな事を呟いてみると。
「ワン!」と勢いの良い返事が(?)返り、エドワードを更に愕然とさせる。
 となると、今の状況を招いたのは自分の所業と言うわけで…。

 ロイは吠えた後、一振り胴震いをしてエドワードを喘がせたと思うと、闇雲に突き上げを開始した。
 普段のロイでは考えられない突き上げは、テクニックやら技法など何一つ無く、ただただがむしゃらな突き上げだ。 エドワードは力任せなロイの突き上げに、しがみ付いているので精一杯になる。 
 甘い囁きも、絡み合う吐息も無い。 
 相手を如何に感じさせるかのテクも計算も無い。
 今のロイには、相手を味わい、喰らい尽くす衝動だけで動いている。 
 高い咆哮と共に果て。
 果てては、更なる突き上げを開始する。
 室内には、エドワードの喘ぎ声と、ロイの唸り声や咆哮。
 そして、グチョグチョと鳴り響く水音に、激しい乾いた音が連打され続けていく。
 
 それは日が空け、室内が明るい日差しに包まれるまで続き、
 精根尽き果てた後、パタリと鳴り止み、暫しの静けさを部屋にもたらしたのだった。





 
 


 目覚めは爽快な気分だった。 そう、充足感がもたらした眠りは深く健やかで、
これが通常の朝なら、1日の仕事の成果も保障されたような、そんな目覚めだった。 
 そしてそれは、隣で昏々と眠るエドワードを見るまでだった。

「エ…ドワー・・ド…」
 思わず呟いた瞬間、昨晩…いや、ほんの数時間前までの記憶が鮮明に思い出されていく。
 記憶が頭を過ぎる度に、ロイの顔面から血の気が引いていく。
 一体いつの間に、寝室にやってきたのかは思い出せないが、リビングに足を運べば、
間違いなく昨日の惨状が色濃く刻まれている事だろう。
 エドワードの疲労困憊の有様を見れば、自分の所業が如何に行き過ぎていたかは、痛いほどわかる。
 エドワードを抱けるときには、いつも慎重に慎重を期しての事だった。
昨夜のように、自分の欲望を優先に突っ走るなど、有り得なかったし、自分でも許し難いほど腹正しくなってくる。
 『一体、あそこまで我を失うなんて何故だ…?』
 自問自答を繰り返していく間に、自分が触発された匂いの事を思い出す。
『あれを最初に考えていたのは…』
 つらつらと辿っていくと、一つの要因に辿り着いていく。
『まさか…、本当にかかっていたのか?』
 まさかと否定して、しかしと思い直す。 それしか原因が考えられない。
 エドワードは素直に甘えて欲しいと言って、ロイに犬になる暗示をかけていた。 
『となると、さっきまでの行動は、自分の本能に忠実な姿…?』
 そこまで考え付いて、思わず愕然とする。
 飢餓感を持つほどの、エドワードへの執着ぶりは、思わず背筋が寒くなる。
 何せ、喰らいつくしたいと、本気で血肉を裂きたい欲望が湧きあがっていたのだから。
 その思いが、欲望に直結したのは、逆に幸いだったのだ。
 でないと自分は、エドワードを食い殺していたかもしれないのだ。
 ロイは自分の途方も無い真実に、ギュッと固く目を閉じ。
 金輪際、表に出さないと心に刻み付けるように誓う。

 そうこうしていると、モゾモゾをエドワードが寝返りを打ち始める。 
少し動くだけでも、無意識ながらに眉を顰めているのは、身体がきついせいなのだろう。
 ロイは観念して、エドワードが目覚めるのをじっと見つめながら待つ。
 怒鳴られるのも、詰られるのも、自分のやった仕打ちを考えれば、甘んじてうけるしかないだろう。
 金の睫が翳を落としていた瞼が、小さく震える。
 そして、泣き腫らしたせいか、重たげな瞼が開かれていくと、
まだ情事の余韻を漂わせるような潤んだ瞳が、現われてくる。
 ロイは意を決して、先に声をかける。
「エドワード…、そのぉ、身体は大丈夫かい?」
 恐る恐るかけた声が、微かに震えてしまう。
「ロ・・イ。 身体…?」
 数度瞬きをしたかと思うと、「あっ!」と声を上げて、起き上がろうとする。
「いっ! いててぇー」
「だ、大丈夫か!」
 起き上がろうとした身体は、そのままベットへと撃沈した。
 慌てたロイが、支えるように腕を出してくる。
「くっ~」
 ロイがオロオロとしている目の前では、エドワードの辛そうに歪められた表情が晒されている。
「・・・・・・・・ ったく、大丈夫なわけないだろ!
 あんだけ無茶やられまくれば、起き上がりも出来ないぜ」
 ブゥーと膨れ面をしながら、ロイを睨んでくるエドワードの前で、ロイはしょんぼりと小さくなっていく。
 その有様が、何だか犬みたいで、エドワードは思わず噴出してしまう。
「エドワード?」
 もっと詰られるか、罵倒されると思っていたのに、笑い声を上げているエドワードを、訝しそうに見つめる。
「しゃーないじゃんか。 昨日のって、俺の催眠術が原因だろ?
 自分でかけたんだから、ロイに文句言う筋合いじゃないしな。
 … まぁ、ちょっと俺の予想とは違ってたけど・・さ」
 そう語りながら、赤らんだ頬が何を思い出してかは、察せられる。
「本当に済まなかった。 私も、まさかあれ程とは…」
 それと、エドワードの才能を甘く見ていたのも敗因だし、自身を慢心し過ぎてもいたからこその、過失だ。
「いいよ、別にロイのせいじゃない。 俺が望んだ事なんだから」
 そう潔く告げて、明るい笑みを見せてくれるのに、ロイは心底ホッとした。
「でも! 今日は動けないから、ロイが全部面倒見ろよ!」
 その言葉に、何度も頷いて返す。

 
 リビングは、やはり予想通りの有様で、使えないくらいドロドロに汚れていた絨毯やら、ソファーは庭で燃やして廃棄した。
 風呂場も…まぁ、あんまり褒められた状態ではなかったが、こちらは洗い流せる分マシだろう。
 ロイはせっせと片付をし、エドワードにと食事を作り、飲み物を差し入れ。
 退屈だと言えば、本を探してきたり、話し相手を務めたりと大忙しだったが、始終嬉しそうな顔だった。
 エドワードも、不機嫌そうな表情を作って見せてはいるが、機嫌が良さそうなのは、ロイにもちゃんと伝わってくる。
 
 入浴もロイが世話をしたが、エドワードの身体に残る跡の多さに、エドワードは顔を真っ赤にし、
ロイは蒼ざめ、そそくさと入浴を終わらせた。
 ベットに腰かけて本を読んでいるエドワードの髪を、丁寧に拭いて梳かしてやりながら、
ロイはずっと考えていた事を聞いてみる。
「一つだけ聞いてもいいかね?」
 優しい手の動きに、うっとりとしかかっていたエドワードが、ロイの声にはっと気を取り戻す。
「えっ…? あっ、ああ何?」
「君はどうして…、あんな酷いことをした私を許してくれたんだね?」
 どう考えても、昨晩の行為は無理やりに近かった。 恋人同士だからと、許される範疇を超えていただろう。
 確かにエドワードの施した生半可な術がかかっていたせいもあるが、ロイが本心で止めようと思えば、止めれない程度で、きっかけに過ぎなかったと、今なら判る。 
 ----- でも、止めたくなかったから。
 自分の暴走を抑えなかったのだ。 そんな自分を、何故エドワードは許してくれたのだろう…。

「別に昨日の事は、あんただけの責任じゃないさ…。
 元はといえば、俺があんたにかけた術が原因だ。 なら、悪いのは俺だってことだろ?」
「しかし…、止めようと思えば、多分止めれていた筈だ」
「そうかもしんない。 けど………、いいんだ、あれがロイの本心の一部なら、
それを知る事が出来ただけで、俺は…いいんだ」
 項まで仄かに紅く染めながら告げてくるエドワードを、ロイは愕然と聞いていたかと思うと。
「君、まさか…、普段の行為に満足して無かったとか? 
 も、もしかして、ああいうのが好みだった…ブッ!!」
 ロイの言葉は、途中でエドワードに投げつけられたタオルを顔面に受けたため、最後まで語れずに終わった。
「な~に、寝ぼけたこと言ってんだよ! あ、あ、あんなのが良いわけないだろ!」
 顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくるエドワードに、ロイは納得が出来ない表情を見せている。
「しかし…」
「そうじゃなくて! 
 ------ 余裕のないあんたって、…滅多に見れないじゃん」
「エドワード?」
 ロイには不明の言葉だけ告げて、そっぽを向いてしまったエドワードに、根気良く声をかけて促す。
「ああ、もう! くそぉー、言いたくなかったのに…」
 ぶつぶつと文句を唱えている恋人の横に、強引に座り込んだロイが、優しく髪を撫でてやりながら、再度、呼びかける。
「エドワード」
 その声に、渋々ながら、エドワードが話し始めてくれた。
「…あんたはいつでも、余裕いっぱいじゃんか。 普段の時も、ね、ね・・る時とかもさ!
 でも、俺はいつも一杯一杯なんだよ。 
 必死で追いつこうと思っても、何か振り回されてるのは、いつも俺だけな気がして…。
 でも、昨日のあんたは、俺以上に必死そうに見えたんだ。 …それがあんたの本心の一部って言うなら、
馬鹿みたいに振り回されてるのは、俺だけじゃなかったんだなって思えたから……。
 だから、ちょっと嬉しかった」
 自分の隠しておきたかった真情を吐露したのが、余程悔しかったのだろう、難しそうに顔を歪めて床を睨んでいる。
 ロイはそんなエドワードの様子に、思わず腕を伸ばして、身体を引寄せると、
自分より小さな肩に、顔を埋める様にして凭れかかる。
「おっ。おい? 重いって…」
 エドワードの上げかけた抗議の言葉は、話し出したロイの言葉に遮られ止ってしまう。
「… 余裕なんかないさ、私だって…。 
 いつだって、君の事が気になって…君の一挙一動に、浮かれたり、戸惑ったり…不安を抱えたりしてるんだ」
「う…そっ」
 ロイの言葉に、エドワードが茫然と呟く。
「嘘なもんか。 だから、本の少しのきっかけで、あんなになってしまったんだ…それ位、
君にベタ惚れしてる自覚はある」
 ロイだって、不安なのだ。 恋人は年がら旅にと飛び回り、自分に出来る事といえば、案じながら待つだけの生活だ。
 もしかして、旅先で自分を超える相手に出会ってしまうという可能性だって、無きにしも非ず。
 それでなくとも、自分は恋人よりも14歳も年上でもある。 出来ればいつでも触れれる手元において置きたい。
 他の人間の目に触れさせたりしたくない。
 …自分だけを好きでいて欲しく、いつまでも自分のモノだけで居て欲しい… 
そう願うくらいには、この若く、小さな、可愛い恋人に惚れているのだから。
 いい年下大人が、何を思春期の若造のような事を思っているのか… 自分自身が情けないと思うこともしばしば。
 それでも、情けなくても仕方ないと思うほど、…好きなのだ、自分のたった一人の、この少年が。
 ロイが苦笑を湛えながら、エドワードに視線を向けると。
 大きな瞳を、真ん丸にして自分を見ている視線にぶつかる。
 視線が絡んだと思うとエドワードは、くしゃりと泣きそうに表情を歪めて、ロイの腕の中に納まってくる。
「そっか…、俺だけじゃないんだ・・な。 そうだったんだ…」
 そう呟きながら、ホォーと長い吐息を吐き出した。
「エドワード?」
「う・・ん、なら良いんだ、それなら。 あんたが俺の事を好きだからなら、俺……許せるから」
 そう告げながら、腕を回してロイにしがみ付く。
「そっか…、許してくれて、ありがとう」
「うん」

 暫く、言葉も無く抱き合い、互いの体温を感じ、分け合い。
 その夜は、仲良く寄り添いながら、温かなベットで静かに眠りに付く。 
 眠りに付いた後の互いの夢に、相手が出てきたかは、内緒だ。
 
 寄り添っている二人の周りで漂う、優しい香りは。
 一人ではなく、二人で寄り添って初めて作られていく香りなのだと、ロイは眠りに落ちる前に気づいた。
 いつまでもこの香りに、包まれていたいと思いながら……。
 





 そして、ロイの腕の中で眠るエドワードは、心の中で謝りを告げる。
『ごめんな…。 少しだけ嘘ついたんだ、俺。
 実は、ちょっと、本当にちょっとだけだけど、昨日みたいなロイも良いかなって…』

 毎回だと辛いけど、たまにならあのロイに出てきて貰おうかと
エドワードが考えてるのは、今はまだ内緒だ。





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